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【就活ネタ】走れ就活生【メロスパロディ】

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第一幕

メロス(就活生)は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の人事部を除かなければならぬと決意した。
メロスにはビジネスがわからぬ。メロスは、地方の一浪一留大学生である。一限には絶起し、雀荘で遊んで暮して来た。
けれども内定マウントに対しては、人一倍に敏感であった。

きょう昼過ぎメロスは駅を出発し(もちろん目当ての電車が出る頃に起床した)、野を越え山越え、百里はなれた此の東京にやって来た。
メロスには父も、母も無い(事実上の勘当である)。
彼女も無い。
十五の、元気な二次元の妹(名は比企谷小町という)と二人暮しだ。
この妹は、妹キャラとしての理想を体現しているが、近々、誕生日を迎える事になっていた。
生誕祭も間近かなのである。メロスは、それゆえ、アクリルスタンドやら祝宴の御馳走やらを買いに、企業支給の交通費を頼りにはるばる東京にやって来たのだ。

先ず、その品々を買い集め、それからマイナビ就職EXPOをぶらぶら歩いた。
メロスには竹馬の友があった。セリヌンティウスである。
今は此の東京で、慶應義塾大学生をしている。その友を、これから訪ねてみるつもりなのだ。
久しく逢わなかったのだから、訪ねて行くのが楽しみである。

歩いているうちにメロスは、会場の様子を怪しく思った。ひっそりしている。
ざっくばらんな話が全くざっくばらんでなく、疲れがたまるのは当りまえだが、けれども、なんだか、盛り上がらない座談会のせいばかりでは無く、会場全体が、やけに寂しい。
のんきなメロスも、だんだん不安になって来た。

座談会で逢った日大生をつかまえて、何かあったのか、バブル世代が言うには、面接でも皆が歌をうたって、就活は賑やかであった筈だが、と質問した。
日大生は、首を振って答えなかった。

しばらく歩いて就活イベント主催系長期インターン学生に逢い、こんどはもっと、語勢を強くして質問した。
インターン生は答えなかった。メロスは両手でインターン生のからだをゆすぶって質問を重ねた。
インターン生は、あたりをはばかる低声で、わずか答えた。
「HR department is a devil.」
「なぜ英語なのだ。」
「みん就に悪評を書かれている、というのですが、誰もそんな、悪心を持っては居りませぬ。」
「たくさんの就活生を殺したのか。」
「はい、はじめはをバイトリーダーを。それから、学生団体副代表を。それから、採用担当の妹さまを。それから、」
「おどろいた。人様の妹にその仕打ちとは人事部長は乱心か。」
「いいえ、乱心ではございませぬ。就活生を、信ずる事が出来ぬ、というのです。
このごろは、内定者の心をも、お疑いになり、少しく就活継続の素振りをしている者には、内定承諾書を差し出すことを命じて居ります。
御命令を拒めばコーヒーをかけられて、内定を取り消されます。きょうは、六人取り消されました。」
聞いて、メロスは激怒した。「呆きれた人事部長だ。生かして置けぬ。」

メロスは、単純な男であった。買い物を、背負ったままで、のそのそ六本木ヒルズにはいって行った。
たちまち彼は、ALSOKの警吏に捕縛された。調べられて、メロスの懐中からはアクリルスタンドが出て来たので、騒ぎが大きくなってしまった。
メロスは、人事部長の前に引き出された。


第二幕

~中略~

「ああ、人事部長は悧巧だ。自惚れているがよい。
私は、ちゃんと死ぬる覚悟で居るのに。
命乞いなど決してしない。ただ、――」
と言いかけて、メロスは足もとに視線を落し瞬時ためらい、
「ただ、私に情をかけたいつもりなら、処刑までに三日間の日限を与えて下さい。
たった一人の妹の、生誕祭を祝ってやりたいのです。
三日のうちに、私は自宅で生誕祭を挙げ、必ず、ここへ帰って来ます。」

「ばかな。」と暴君人事部長は、嗄れた声で低く笑った。
「とんでもない嘘を言うわい。絶起大学生が帰って来るというのか。」
「そうです。帰って来るのです。」
メロスは必死で言い張った。
「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。
妹が、比企谷小町が、私の帰りを待っているのだ。
そんなに私を信じられないならば、よろしい、御社の内定者にセリヌンティウスという慶應義塾大生がいます。
私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。
私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、あの友人の内定を取り消して下さい。たのむ、そうして下さい。」
 
それを聞いて人事部長は、残虐な気持で、そっと北叟笑えんだ。
生意気なことを言うわい。どうせ帰って来ないにきまっている。
この嘘つきに騙だまされた振りして、放してやるのも面白い。
そうして身代りの男を、三日目に内定取り消しにしてやるのも気味がいい。

人は、これだから信じられぬと、わしは悲しい顔して、その身代りの男の内定通知書をシュレッダーにかけてやるのだ。
世の中の、正直者とかいう奴輩にうんと見せつけてやりたいものさ。

「願いを、聞いた。その身代りを呼ぶがよい。三日目には日没までに帰って来い。
おくれたら、その身代りを、二度とヒルズを歩けなくするぞ。ちょっとおくれて来るがいい。代わりにおまえに内定をあげるぞ。」
「なに、何をおっしゃる。」
「はは。内定が欲しかったら、おくれて来い。おまえの心は、わかっているぞ。」
メロスは口惜しく、地団駄踏んだ。ガクチカも言いたくなくなった。
 
竹馬の友、セリヌンティウスは、深夜、六本木ヒルズに召された。
暴君人事部長の面前で、佳き友と佳き友は、二年ぶりで相逢うた。
メロスは、友に一切の事情を語った。セリヌンティウスは無言で首肯き、メロスを軽蔑した目で見つめた。
友と友の間は、それでよかった。セリヌンティウスは、深夜残業の予行演習ということで研修室に連れていかれた。
メロスは、すぐに出発した。三月、満天の星である。


終幕

~中略~

陽は、ゆらゆら地平線に没し、まさに最後の一片の残光も、消えようとした時、メロスは疾風の如く六本木ヒルズに突入した。間に合った。

「待て。その人の内定を取り消ししてはならぬ。メロスが帰って来た。約束のとおり、いま、帰って来た。」
と大声で受付にむかって叫んだつもりであったが、喉がつぶれて嗄がれた声が幽かすかに出たばかり、受付は、ひとりとして彼の到着に気がつかない。

すでにシュレッダーの電源は付けられ、セリヌンティウスの内定通知書は、徐々に釣り上げられてゆく。

メロスはそれを目撃して最後の勇、セキュリティゲートを突破し、就活生を掻きわけ、
「私だ、人事部長! 内定をもらうのは、私だ。メロスだ。彼を人質にした私は、ここにいる!」
と、かすれた声で精一ぱいに叫びながら、ついにデスクに昇り、釣り上げられてゆく内定通知書に、齧りついた。

社員は、どよめいた。あっぱれ。ゆるせ、と口々にわめいた。セリヌンティウスの拘束は、ほどかれたのである。
「セリヌンティウス。」メロスは眼に涙を浮べて言った。
「私を殴れ。ちからいっぱいに頬を殴れ。私は、途中で一度、悪い夢を見た。
君がもし私を殴ってくれなかったら、私は君と抱擁する資格さえ無いのだ。殴れ。」

セリヌンティウスは、すべてを察した様子で首肯き、オフィスいっぱいに鳴り響くほど音高くメロスの右頬を殴った。
殴ってから優しく微笑ほほえみ、

「メロス、私を殴れ。
同じくらい音高く"慶應義塾大学経済学部/外銀・外コン志望/TOEIC860点/座右の銘:一寸先は闇だが二寸先には宝がある"の私の頬を殴れ。
私はこの三日の間、常に君を疑った。生れて、はじめてロクでもない奴だと君を疑った。
君が私を殴ってくれなければ、私は君と刺激し合い意識を高め合うことができない。」
メロスは腕に唸りをつけてセリヌンティウスの頬を殴った。

「ありがとう、友よ。」
二人同時に言い、ひしと抱き合い、それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。
オフィスの中からも、歔欷の声が聞えた。

暴君人事部長は、群衆の背後から二人の様を、まじまじと見つめていたが、やがて静かに二人に近づき、顔をあからめて、こう言った。
「おまえらの望みは叶かなったぞ。おまえらは、わしの心に勝ったのだ。
信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。どうか、弊社の一員として一緒に働きませんか。
どうか、わしの願いを聞き入れて、弊社の新規事業開発本部の一員になってほしい。
新卒一年目からプレーヤーとして市場価値を高めていかないか。」

どっとオフィスの間に、歓声が起った。
「万歳、人事部長万歳。目指せ売上1兆円。」

ひとりの女子大生インターンが、緋の内定通知書をメロスに捧げた。メロスは、近距離で漂う花の香りにまごついた。
佳き友は、気をきかせて教えてやった。
「メロス、君は、無い内定じゃないか。早くその内定通知書を受け取るがいい。
この可愛い娘さんは、メロスの内定承諾を、待ち望んでいるのだ。」
勇者は、ひどく赤面した。

二週間後、セリヌンティウスは外コンの内定を承諾し、辞退した。

走れメロス原文はこちら



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